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The sweetest story of Raspberry ~1~ うさぎ

最近walkmanが壊れて、今日は携帯からイヤホンを伸ばしてる。Walkmanを買ってから新しい曲を入れてなくて、携帯からは昔の曲ばかり流れてくる。携帯は壊れそうなくらい前の型。新しい環境になる前に、携帯を変えようとしたのだけれど、結局次の型が出るまで待とうなんてしてたらもう1年と半年くらいたってしまった。

冬。寒くて飛び込んだ喫茶店で、次の授業の予習。英語の文献を見ながらホットココアを飲んで音楽聴いてるなんて、ちょっと大学生っぽいって思いながら。

ふと外を見たとき、帽子とマフラーを付けて肩をすくませながら、誰かを待ってる子がいた。ちょうど、音楽が変わった。桑田圭祐の白い恋人達。彼女は10秒くらいの間に、どこか街の中に消えていった。

この曲、懐かしい。何年前だろう。この曲は高校1年にまたクラスのみんなの中でヒットした。あの頃は、みんなで一緒にいて、こんなおしゃれな喫茶店で1人ココアを飲むこともなく、マックで毎日おしゃべりばっかしてた。今はみんな別々の場所。こんなところで1人でいるなんて笑われるかな。本当はこんなことするの好きなんだ。1人になりたい時もある。でも、今は逆みたい。誰かといたい時もある。

 

…この曲を聴いていたら、なぜか飛び出したくなった。なんで私、一人ぼっちなんだろう。なんで自分の気持ち抑えてるんだろう。なんで、私悲しそうな顔してるんだろう。ガラスに映った私はどうしてこんなに泣きそうな顔してるんだろう。周りの人もみんな一人でいるけど、泣きそうな人なんていないよ。みんな幸せそうだよ。赤いマフラーをとって席に座ったあの人も、スーツ着て新聞読んでいるあの人も、帽子かぶって勉強してるあの人も、私みたいに音楽聴きながら寝ているあの人も。みんなしっかり自分のこと考えて、きっと前に進もうとしてるんだ。なんで?どうして私、自分に反したことしてるんだろう。こんなかっこつけてたってしょうがないよ。こんなに気を紛らわしてたって、どんなに忘れようとしたって、忘れることはできないんだよ。自分に嘘ついて、なんでこんなところにいるんだろう。

ココアが飲み終わった。文献は私の手元から鞄にしまわれて、いつもより長い休憩が終わった。今日はバンドの練習がある。私は行かなきゃならないんだ。喫茶店の向こうの、少し奥に引っ込んでいるスタジオ。みんなが待ってるだろう。別に私がいなくても成り立つ。私がいなくたって練習できる。私がいなくたって、きっと談笑して終わるんだろう。でもきっと、行くべきなんだ。私が行くべきなんだ。逃げたって、いつか来てしまうから。

“ただ逢いたくて もう切なくて 恋しくて”

私はただただ、この曲の通りに口ずさんだ。ブーツがカツン、カツン、といい音を鳴らしている。ショーウィンドウに映る私は、一人ぼっちで泣いていた。嘘ついて、寂しいからバイバイしたんだ。なんでそんなことしちゃったんだろう。大好きで大好きで、もうどうしようもなかったんだ。泣きながらすがりつくのも、もうどうしようもないと勝手に決めてやめちゃったんだ。彼の眼に映る私は、どんなふうに見えてたんだろう。最後彼はあんなにつらそうな顔をしながら、“分かった。”って笑ってうなずいていたんだ。なんで大好きって言えなかったんだろう。信じることができなかったんだろう。マフラーに顔を沈めて、私は嗚咽が出そうな口をそっと隠した。熱くなった頬に、気持ちのよい風がなびいた。きっと、きっと大丈夫だろう。私、素直に言ってみなきゃいけないんだ。もう、後悔しちゃいけない。

スタジオについて、練習を始めているだろうバンドのメンバーの元へ行った。あと一時間しかない。急いで二階の一番奥に行った。こじんまりとやってるのに、設備がとてもよくて、私たちはここで一年以上練習を繰り返してる。

ドアを開いた。一瞬、音が漏れてまた静まった。みんなが私に気づいて演奏をやめたから。

「さき、遅かったな。」

ベースを持ちながら一人のメンバーが、荷物の置いてある所に行った。

「用事があるって先に帰ったよ。これ置いてった。すれ違わなかったか?」

小さな小包。りゅう君らしい、真中におっきく、女の子みたいな字で私宛だと主張してた。ギターの子が、今練習してる曲の間奏を弾き始めた。ドラムの子も、そこに加わって、またうるさくなった。無理に音を大きくしてるみたいに、強がった音楽が響いてる。本当は、弱い弱い、今にも泣き出しちゃいそうな曲なのに。

 

りゅう君は、大学に入ってから付き合いだした、バンドのメンバーだった。すごく悩んだ。バンドでもし別れてしまったら、どちらかが離れてしまうんだろうって。でも、私は歌いながら、りゅう君が弾くキーボードを一生懸命聴いていた。バラードの時はピアノを弾いてくれて、そんな繊細なメロディーに少しずつ、心を許すようになっていった。

6月のことだった。りゅう君は、今まで言えなかったんだけど…、といって、私に電話をしてきた。梅雨入りはまだまだで、雨も降らず、とても繊細な日の光がさしていた。りゅう君みたいに。なんで会って話せないの、と言ったら、こういうときにあなたに会うのは今でも緊張するから、と笑った。何?と、私が何の心の準備もしないままに質問すると、りゅう君は、“10月から留学する予定なんだ。”と、まるでなんでもないかのように、さらりと私に打ち明けた。その調子で、私も、そうなんだ…すごいね、と言った。よく、わかってなかった。でも、23日たって、私はようやく重要さに気付いた。私、りゅう君と一年、一緒にいれないんだ。

 

メール、どうしてくれなかったの。手紙と一緒に写真入れといたんだけど、見てくれた?

 

昨日、ちょっと雰囲気の変わったりゅう君と、そんな話をした。りゅう君自体は何も変わってなくて、ごめんね忙しかったんだ、と紅茶を目の前にそう言った。毎日毎日、りゅう君の返事を待つ日が続いてた。もう限界、もういやだって思うと、彼は決まってメールをよこした。そのたびにうれしくなって、やっぱり許してあげた。

でも昨日、クリスマスだからって帰ってきたりゅう君に、あ、そういえば今日ちょっと用事あるからあと少ししか一緒に入れないけどいい?って言われた瞬間に、何か吹っ切れた気がして、そのまま涙もないまま別れを告げた。なんか、何も考えてなかった。限界だった。大好きだったからこそ、つらくてつらくて、それがバイバイを告げさせたんだ。

 

“今までありがとう。クリスマスプレゼント。昨日は勝手に用事があるとか言ってごめん。来年、帰ってきた時はまたバンド組んでください。あなたの歌声が、本当に好きです。”

 

私はその手紙を見つめたまま、スタジオを出た。小包の袋が揺れてよく見えない。化粧が落ちないように、ゆっくり指で目頭をぬぐった。温かい涙が指を伝って、私の感情が流れて行った。少しぬれた手で、小包を開けた。そこには、78センチのかわいらしいピンクの天使がいた。すごく、可愛くって、あぁ、りゅう君ぽいなって思った。私はそれをもう一度小包に戻して、…また思い切り泣いた。映画に行くことだって、水族館に行くことだって、洋服買いに行くことだって、一緒にお料理することだって、すごくすごく、りゅう君とだから幸せだった。きっと、二人にこれからなんてないんだろう。二人で怖がって、きっと近づくことはないんだろう。

申し訳なくなって、涙がひいたころにまた中に入った。みんな聞いたんだろうな。三人とも気まずそうな顔してる。ごめんね、ってそっとつぶやいた。私のせいなんだ、って、天使の入った小包を手の中でそっと握った。大好きで、大好きで、そんな想いをありがとう。

私は、ゆっくりと準備をして、りゅう君がひいていたのであろうスタジオの端のピアノを触った。心地よい音色が響く。私はそのままりゅう君が好きだった曲を弾いた。歌いながら、戻ることはないりゅう君との関係をずっとずっと考えていた。りゅう君は、次の日私が知らない間に地元に帰っていたらしい。来週にはまたホームステイ先に帰ってしまう。そして、彼を待たないまま、バンドには新しいメンバーが、私のりゅう君のパートに加入した。

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