The sweetest story of Raspberry ~4~ 雨
―あげる。
そう言われて、また新たに贈られたプレゼント。ありがとうとは言うんだけれど、まったく心に響かなかった。
ずっと気づいてなかった。私とあいつはずっと一緒で、大学も一緒。近所に住んでて、昔から事あるごとに行動を共にしていた。でも私はいつも他の仲間と一緒にいたし、私にとってあいつは別に何もない、ただの友達だった。考えてみると、よく考えてみると、もしかしたらそれ以下だったかもしれない。からかったり無視したり、何かあればすぐにやつあたりもしたし、私が唯一そこまで感情を開ける男ではあったけれど、私は常にそういう自分を嫌っていたし、感情が表に出すぎると嫌われることもわかってた。私は心底人に嫌われる行動をとってるに違いないし、いつもいる人たちもきっと表面上なんだろう。高校の時はそれでも、まだ後輩で私に相談してくるような子もいたし、友達だと言えるような子もいたし、ある程度秩序を保っていたんだけど。
ちょっと転機があった。私にとっては重要なことだった。何がって、私には受け入れることのできないものだった。
“もし大学受かったら告白する。”
試験が終わって、同じところを受けたみんなで帰ってる途中にあきがそう言ったのだった。急にどうしたの、誰々~?と、みんなで、私も含めて、いろいろ当てようとした。あきは口を固く結んだまま、最後まで誰というわけでもなく、受かるまで内緒~、とみんなに笑って言った。
私には考えにあてがあった。というか、そうであってほしいことだった。ずっと、あきに片思いしてた後輩がいたから。1つ下の子で、あの子が1年の時からいろんな話を聞いていた。あきが身近な存在過ぎて、私にはどこがいいのかよくわからなかったけれど、その子の話を聞いてるときほど和やかで気持ちの良い雰囲気になることはほかになかった。とても綺麗でかわいらしい子だったし、性格もあきにはぴったりだと思ってた。だから、きっとその子に告白するんだろうなぁ…、と踏んでいた。
合格発表当日、私は受かっていた。同じ大学を6人が受けて、結局受かったのはあきと私だけだった。みんな電話越しやメールで泣いていて、その後も家のパソコンや電話を使って次々に合否を調べている中、私はあきの家に行って、告白しないのかよーとちょっかいをしていた。
“するし。”
あきはちょっと照れくさそうに、しかし不満足げに、携帯を取り出した。電話するのかなと思って、そこまで一緒にいちゃまずいだろうと思い、私はいったん部屋を出た。
(みく、かなぁ。)
後輩を思いながら、うきうきしてたところだった。私も着信が来て、耳をそばだててドア越しに待っているのをいったん中止した。誰だよこんな時に、と思ったら、やつだった。
(あき。)
私に、着信が来たのだった。
“なに。逃げたか。”
そう言って笑ってみたけど、尋常じゃないくらい手に汗をかいていた。怖かった。わからなかった。私には心の中で思っている人がいたから。
“ありすが好きなの。”
あきはそう言って、今までの思いをつらつらと並べた。好き、好きって言うけど、私には何も響かなかった。
私はそのまま顔を合わせず、何もなかったかのように家へ帰った。それから入学式まで、あきとは会わなかった。でも、それでも私とあきはずっと一緒にいたからか、入学式であったら告白なんて忘れたかのようにふるまえた。ただ、少し変わったと言えば、こうやってなにかプレゼントしてくれたり、二人で遊びに行くことに抵抗が出てしまったり、そんな風に前の関係には戻れなくなってしまったことである。
あきはこの夏も帰省したらしい。そのときの土産がこれだった。ガラスの靴のネックレス。片方だけの、未完成なシンデレラ。いくらしたのって言ったら、そんなにしてないよ、って笑った。あきはそういう人である。いつもよりも高価なプレゼント。私はそんな繊細な人じゃないから、こんなの似合わないよって言ったけど、まったく聞く耳持たなかった。逆に、あきは違う話をしたそうでうきうきしていた。
“みくちゃんに会ったよ。”
あきは、久しぶりに聞く名前を出した。みくちゃん。あなたのことがすごく好きだった人。久しぶり。よく、相談聞いたなぁ。あの時、私は本当に好きな人がいて、あの時はまだこんなに荒れてなかったな。依存するタイプなのだろうか。いまだに、あの時のような気持ちを見つけることができない。
「あ、すいません。」
自転車にベルを鳴らされて、やっと意識が戻った。ボーっとしていたら、土産を持ったまま20分くらい立ち尽くしてたみたいで、雲がさっきとは打って変わって暗くなってきていた。あきがさっき電話をくれて、あきとうちの中間地点の公園に来たときは、まだ晴れていた。10月の天気っぽいなぁ。乾燥してるし、なのに湿った空気が流れてるし、落ち葉が風に巻かれてぱらぱら落ちているのも秋っぽい。今はあきの季節。私の大好きな季節だったはずだけど、今は悲しい思い出が心に落ち着いていて、あき、って呼ぶのすらさびしいときがある。完全に飛び火だけど、それでも“あき”ってフレーズが嫌で、だからあきにも冷たいんじゃないかと友達に言われたことがある。
髪の毛を黒のショートからミディアムにのばして、赤のメッシュを入れたころから、私の周りが変わった。いや、周りが変わったからそういう髪の毛にしたのかもしれない。とにかく、私は前よりも変わったし、あきにはそれがわからないのかもしれないけれど、なにも感じれない私にそうやって何かを感じてほしいように接しないでほしいんだ。私は何も言えないし、そんなことには触れたくないからあきには黙っているけれど、感じ取ってほしい。もう、会わないほうがいいのかもしれない。あきのことを好きでいる子がたくさんいる中で、私のような中途半端な奴に時間を割いて何の意味があるのだろう。あきはどうして私を好きなんだろう。どうして、撤回してくれないんだろう。
いろいろなことを考えながら、公園のベンチにまた座った。一回しまったガラスの靴を、また取り出してみた。まぶしくて、くすぐったかった。手持ちの鏡を見ながら、慎重にネックレスを着けてみたけれど、やっぱり似合わないし…と少し不機嫌になった。
シンデレラは、愛する人を見つけて、それでも消えなきゃいけなくて、本当の自分を知られたくなくて、隠れるように身を消した。また会いたいと望みながらも、愛する人に会いたいと望みながらも、それができなくて、そっと涙を流していた。靴が脱げても、どんなに魔法が解けそうになっても、懸命に走った。気持ちとは裏腹に。そんなシンデレラを見つけてくれて、幸せにしてくれた王子様は、…。私にはいないし、戻ってこないでしょ。
なんで一生懸命恋したのに、彼は、私に振り向かなかったんだろう。
頬に、しずくが落ちた。涙かと思ったが、違った。雨だった。暗い雲が、私の上に現われて、一つ、また一つと、地面に影を落とした。
私は、あの頃から、泣けなくなった。
自分で分かっているのに、私は、泣けたのだと勘違いした。とうとう、彼のことを考えても泣けなくなってしまったんだ。
雨がひどくなってきて、私は歩きだした。傘を持っていなかったから、でもカッコ悪くて走れなくて、ただあきのくれた小包を濡れないように抱えながら、余裕かのようにふるまっていた。
突然、一本の電話がきた。あきからだった。私はしかめっ面をしながら、濡れないように携帯を耳に当てた。
「なに。」
いつものように、私はそうやって出た。それでもあきはめげずに、毎回明るく話しかけてくる。
『ちょっと電話したくなっちゃって。』
あきは少し暗い声色でそう言った。
「今雨で急いでるから切っていい?」
私は心の中でため息をつきながら、そう言って突き放した。
『まだ外にいたの?』
「うん。」
『風邪引くから早く帰ったほうがいいね。切るね。』
「ん、ごめん。」
あきは、そういう人なんだ。
家に着くと、濡れてしまった服を脱いで、ネックレスも外した。ガラスの靴といってもそんなにもろいわけじゃない。私は適当にそこら辺において、お風呂に入った。
次の日、私は携帯のアラームで目を覚まし、いつものようにテーブルの上に手を伸ばして寝ぼけ眼でいろんなものを落とした。ゴツンという音がして、携帯がフローリングに落ちた音がした。充電器のコードにつられていろいろなものが落ち、あーまたやっちゃった、と思ったら極め付けに掃除機もひっかけたみたいで、携帯の近くに倒れた。部屋の構造どうにかしたほうがいいな、と改めて実感しながら、布団の温かさに甘えて、手だけを伸ばして適当にものをかき集めた。
「痛っ。」
私はそのチクンという刺激で、ボーっとしていた頭を起こした。
「まじかー。」
掃除機の下に、昨日食べたままだったお皿が寝ていて、きれいに割れていた。指を切ったらしい。携帯をみると、もう1限の始まる時間に間に合わないことが判明し、私はしばらく動かないでじっとしていた。血が出ていたので、とりあえずティッシュを引き寄せた。破片を見ながら、きらきらしててきれいだなぁ、とか思った。
私は気付いた。
もう、王子様が私に気づくことはないって。
私が切った傷口は浅く、すぐに止血できた。皿じゃなかった。破片だった。ガラスの靴の、破片だった。
私はその日、あきに会ったけれど、何食わぬ顔で接し、何食わぬ顔で別れて、あのネックレスを首に付けないことに何の抵抗もないかのようにふるまった。割れていた靴は、そのまま窓際の棚に置いておいた。これからもきっと、あきと関係が深くなることなんてないだろう。
あきはなにもいわなかった。だって、それがあきだから。
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