ガラス細工/クリスマス雑貨/天使雑貨ラズベリー/ 第十五話 過去が重なる日

TOP - 第十五話 過去が重なる日

第十五話 過去が重なる日

第十五話 過去が重なる日

 

私にとっては、なんでもない結論だったのかもしれない。結局はこうなるのであったのに、なぜ悩んで悩んで、ずっとこんな遠回りばかりしていたんだろう。大丈夫、大丈夫。きっと、私の気持ちに悔いはないから。

絶対、幸せになれるはずだから…。

この言葉を、その夜何度唱えたことだろうか。

 

その日の夢には、昔落としてしまったお守りが出てきた。祖母がくれた、大事な大事な恋のお守り。恋が実って、幸せになるためのお守り。それを落としてしまったのは、やっぱり運命だったのかもしれない。幸せと恋は別物。私の幸せは、やっぱり実現するには難しかったみたい。何が幸せ?何が愛?分からなくて、その状態で探し続けていた私は愚か者。分からないもの探していたら、目の前にあっても分からない。目の前にあるのに通り過ぎてしまう。そんな夢みたいな現実を過ごしていくなら、きちんと前を向いたほうがいいの。

 

「サム…。」

それでもあなたが恋しい。

 

それからの日々、私は頭にずっと浮かぶサムのシルエットを追い払うかのように、部屋の片づけをしたりマリアとお茶しながらどんな子供がいいか女同士でたくさん話したりして、笑って過ごそうとした。それは難しいことだったけれど、気持ちは前に比べればとても楽だった。サムを選ぼうとしていたころはあんなに弱い私で、イアンを見るたびに胸が壊れそうだったのに。

こんなに単純だったんだ。

 

数日経ったころ、マリアがいきなり私の部屋に入ってきた。

「奥様、これを。」

マリアは本当に急いできたみたいで、髪の毛が乱れて呼吸もままならない状態だった。

「大丈夫?マリア顔赤いわ、熱でもあるんじゃなくて?」

マリアが手渡してくれた手紙をそれほど気にしなかった私は、マリアのおでこに手を当てた。するとマリアは急に怒って、お願いですからそれを開けてあげてください、と私の手を握った。

「どうかしたの?」

私は不審に思ったが、開けた瞬間にした香りに胸が高鳴って、夢中になってその少し厚い封筒を開けた。

「サム…?」

信じられなくて、私は筆跡を見ても困惑したままマリアを見つめた。

「さっき、お庭に出てテーブルを拭いていたんです。そしたら門のところで誰かが私に声をかけてきて、…それがその方でした。直接話したのが初めてで、緊張して何言ったか覚えてないんですけど…。奥様あの方とやはり何かあるんですね…。」

その言葉は、マリアの今まで募らせていた不審感を表していた。

私は外に行こうか今手紙を読むか迷ったが、想いを振り払うように首を振って手紙を開いた。中にはもうひとつ封筒が入っていたけれど、手紙を読んでからにして、と書いてあったから、私は素直に従ってサムの字を追った。

 

『親愛なる貴女へ

 

 いきなりごめん。もう聞いたと思うけど、君の旦那に会ったよ。大人だな。俺には、無理。でも君が選んだ人なんだから、幸せにはしてくれそうだね。俺に無理そうなことばかり君の旦那は出来るんだな、悔しいけど。

 で、話変わるけど。泣くなよ。…泣く要素ないか。今完璧片想いだもんなぁ。

 俺、パリに経つ。一週間二週間の話じゃない。そうじゃないんだ。ずっと。ずっとだよ。あの店じゃ小さすぎる。自分が出来るすべてのことを試してみたい。君は幸せになる。これは絶対だ。見れば分かる。もうひとつの封筒を開けてみれば分かるよ。

 できることなら君のこと連れて行きたいくらいだけど、君の幸せは俺にはないよ。ただの喫茶店の坊やと金持ち婦人だし。君がパン屋していたら別だったかもね。でも過去には戻れないんだよ。君がしてきたすべては幸せになるための道しるべだったはずだよ。もし違っていたら怒鳴り込みに来て。待ってる。そのほうが嬉しいかもしれない。

 とりあえず、俺はもうパリに行く。君が最後にうちに来たとき、混んでるの気づいてた?あの日、店畳む二日前だったんだ。メディアで紹介されてからたくさん人が来てくれて嬉しかったけど、あそこまで混むと限界を感じるな。君が来たとき、本当に追い詰められてる気分だったからすぐに君と家に入ってしまったけど。そんなのじゃだめだよな。一応店長なのに。メディアには一応店畳むこと言ってなかったのに、どこで知ったんだろうな。

 …書いてるとどうしても長くなる。もう終わりだ終わり。君が読んでる間にも、すべての人が目的を持って人生を生きてる。君が少し指を動かしたことにも、こうして俺が下手な字で震えた手を使って手紙を書いてることにも、きちんと理由があるように。でも、それは瞬く間に過去になっていく。過去なんだよ。だから俺も進んでる。君から一歩ずつ離れていく。足並みは遅いだろうけど、必ずパリには行くから。で、必ず君のケーキを一番にする。…一番にしても、俺は戻らないけど、君の耳には俺の評判だけが戻るだろうな。それだけが楽しみだよ。

 じゃあ、俺はもう消えるから。ずっとずっと、君だけだった。それを拾ったときから、ずっと君にだけ夢中だった。

 …そろそろ寝ないと明日起きれなそうだから寝るよ。この手紙、もう十二通目だ。まだ納得いかないけど、十分伝わったよね。

 

                              サム・エーメリー』

 

サムは私の名前に一回も触れずに、ただただ自分の想いを書き連ねていた。

私はそれに目を通しながら、霞んでいく視界をぬぐいながら、それでもサムのことを忘れなければいけないという気持ちを奮い立たせていた。マリアが見ているのも関係なく、私はただ震える瞼をしっかり開けて、読み進めていくしかなかった。

 

私はもう抑えきれない気持ちをどうも仕様がなくて、口に手を当て、マリアに見えないように後ろを向いた。

「奥様、私下がってますね。何かあったら何なりと。」

何かあると察して、マリアは静かにその場を離れた。

静かな部屋。迫る時計の音。

震える手で、私はもうひとつの封筒を開いた。

 

「…どうしてもっと早く。」

 

私はそれを封筒ごと落として、立ち尽くした。

マリアが来てから五分が過ぎようとしていた。止まることなく進む時計の針。

私は何も考えずに、ただ部屋を飛び出していた。

 

『彼は、昔からイヴのことが好きだったんだ、って言ってたよ。』

 

昔から。そんなに昔から。

 

『イヴ、聞いて。おじいちゃんとは、あのお守りを私が落としたせいで出逢えたのよ。ね、素敵でしょう。あなたもいつか、素敵な人と一緒になれるわ。あなたの運命の恋なのよ。』

 

サムは私の、あの大事なお守りを、ずっと持っていた人だったんだ。

≪前へ次へ≫

 

 

 

 

 


コメント


コメントフォーム

コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。

情報を記憶する?