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第十一話 告白

第十一話 告白

 

サムはもう、前みたいに窓から覗かれることなく淡々と仕事をこなしているみたい。あの窓から覗くと、彼はチラッとこっちを見て、また視線を元に戻した。また客が来た、とでも思ったのだろう。

私は彼が何か言うまでここに立っていようと決めて、彼が何か可愛らしいケーキを作っている姿を、黙って見つめていた。

数分が経ち、ずっと私がいる気配を感じたのだろう。サムはいきなりゆっくりと顔を上げた。

「…。」

サムは、私だとやはり気づいていなかった。

目が合って、私がくすっと笑うと、サムは眉間にしわを寄せて、懐かしい知人を見たように、私の名前を呼んだ。

「イヴ、…。」

窓越しに、私たちは久しぶりの再会をした。

 

その後すぐ、サムは店内へと私を入れてくれて、予想よりも優しく迎えてくれたサムに安心して、導かれるようにサムの家へと入っていった。

サムは、ちょっと、ちょっと待っててねと慌てて言って、私を残してせわしく厨房の中へ消えて行った。本当にちょっとで戻ってくるかなって時計を見ながら、私は何を話せばいいのか考えた。突発的にここへ来てしまったけれど、さっきまでサムのことはマイナスに考えてたのよ。

イアンとの関係が前のように戻って、お義母様をイアンが説得し終えたら、養子をもらうようになる。そうしたら幸せなのよ。

…そう、自分を説得しながらここまで来たの。頭が痛くなって、涙を流さないようにしながら。

本当にサムのことを純粋に好きになっていたとしても、もう無理なのが分かってる。いずれ養子の、可愛い赤ちゃんを迎えるのよ。そしたら恋なんてそんなもの…言い訳に出来ないわ。

 

…私は、サムと出会って、よかったのかな。

 

結局、その考えに行き着いて終わり。

私はいつも泣いてる。いつも泣いてる。いつもいつも、こんな恋しなければよかったって後悔する。そして、過去ばかり見ていちゃいけないからって、私は次の恋はもっとよいものにしてやるって思う。

…だから、次の恋は、…予想以上に別れのつらさが私を追い詰めるの。

 

私を待たせて何分か経ち、サムは急いで家へ入ってきた。

「よかった、いた。」

サムは笑ってそう言った。

「またいなくなったらどうしようかと思った。」

息を切らしながら、私の横に座るサム。

「久しぶりだね、ここに来るの。二人でいるの。」

子供みたいに言葉をくるくる変えて、目の前の彼は手で一生懸命表現してた。私に会えて嬉しいって、そう想いを込めてくれてるのが十分に伝わる。私も、本当に嬉しかった。

「あの…久しぶりすぎて何言っていいか分からないけど。前のメモ、まだ残ってるよ。嬉しかったから、コピーして額に入れるつもりだから。部屋に飾っとく。『I miss You.…。」

「何、恥ずかしいから言うのやめてよ。あれは…あれは別に…。」

緊張して何から言っていいか分からない。苦しいとか、そういう感情もある。涙が出てきそう。

「まあそれは冗談だけど。って言うか、今日は…あれだね、なんか…金持ちって感じの服装。」

「え?…嫌?」

意識したつもりはなかった。サムに対して、とかじゃなくて、アンに対してのこと。控えめでいつも行ってたはずなのに、綺麗な姿を見せようとしていたみたいだ。

「え、いや別に。嫌じゃない、そうじゃなくて。どこかに行ってきた帰り?それともこれからどこか行くのかなと思って。」

「あぁ、そういうこと。友達の家に行った帰りよ。」

友達…。アンのこと、話題にしたらどうなるんだろう。怖いような、共通のことが話せて嬉しいような、ね…。複雑。

「じゃあ新作のケーキ、今用意してくるから旦那と食べるように持ち帰りな。あぁ、前一緒に来てた友達が近くに住んでるならその子の分も。」

「え?あれはメイドよ。マリアのことでしょ?」

言ってから、なんかまずいこと言った気がした。つい、口走ったこと。普通はこんなこと、言わない。嫉妬が自然に口から出てきたのかもしれない。

「メイド…。やっぱ金持ちは違うね。」

少し引いた様子で目を動かし、サムは立ち上がった。

「…嘘だよ、そんな目で見ないで。まだいれるでしょ?紅茶、持ってくるよ。」

彼は私が固まったのに気づいて笑い、私の頭を軽くなでた。私は彼の後姿を見て、袖をぎゅっと握り締めた。

分かってるよ。…私、別れを言いに来たんだって。

 

数分後。

箱に入れただけだけど、と言いながら、サムは何も知らずに笑顔で戻ってきた。自分から別れを言い出すなんて、なんて苦しいんだろう、つらいんだろう。好きなのに、一緒にいるのが救いだったのに。

 

けれど、サムは私よりも先に驚くようなことを言ってきた。

「思い出したよ。さっきからその髪飾り見たときあるなぁって思ってたんだ。」

「え?髪…あ。」

私は髪に手を当てて、急いでそれをはずした。アンに借りたの、返すの忘れてたんだ。あまり会えないのに…いけない、どうしよう。

「アンの…だよね?」

それを的確に言い当てた彼を、私は本当に疑った。何で、そんなにすぐ分かったの?こんなもので、どうしてあの子の名前がすぐ出てくるのって。

「何で…分かったの?」

言葉につっかえながら、私はこのただの髪飾りを凝視した。

「それ、俺が飾りの花、丸ごと壊しちゃったんだよ。」

「花?…あぁ、ここのぽっかり空いてる場所、飾りついてたのね。どうりで少し寂しいと思ったわ。アンとは友達なの?」

まるで何も知らなかったかのように振舞う私。

「ん、昔からね。」

「あ、もしかして、アンのこと好きなの?」

「はっ?!」

危うく紅茶を噴出しそうになるサム。私は勇気を出して、さらりと言ったつもりだった。失敗だったかな。

「ありえない、ありえなすぎるだろその推測。俺が好きなのはイヴ…。ん?」

自分で言って、サムは自問自答した。瞬きをして、見る見るうちに顔を赤くした。

「ちょっと…ごめん。落ち着かせて。」

顔を手で覆って、サムは落ち込んでしまった。

一方、私はおろおろしながらサムを凝視していた。

「えっと…あの…。」

本当に…?

私はどうしていいか分からなくて、そのまま紅茶を一気に飲んだ。

こんな状態で、こんな…そんな言葉を聞くとは、夢にも思わなかったから。

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